2013年 03月 18日
響け「再生の鐘の音」 岩手・大槌の江岸寺
再び浜に響いた鐘は鳴りやむのを惜しむかのように、耳に残り続けた。東日本大震災で本堂や鐘楼堂などが全焼した岩手県大槌町の曹洞宗江岸寺の釣り鐘が新調され、11日、鎮魂を祈って突き初めが行われた。
午後2時46分。あの時を告げるサイレンの音が鳴りやむと、緑色の法衣をまとった大萱生良寛住職(54)は鐘を突き、深く頭を下げて手を合わせた。
「今は鎮魂の鐘だけれど、いつかは希望の鐘になればいい。ざわめきのない、いい音だもんね」
墓参客や関係者らも一人一人が鐘を突いた。大萱生住職は「急ぐことはないから。津波が来た時間までゆっくりやりましょう」と声をかけ、地震後に津波が市街地を襲うまでと同じ30分間、重く、しかし清廉な音が大槌に響き続けた。
震災の日、江岸寺で半世紀の間突かれ続けた鐘は、津波とその後の火災によって溶けて失われた。再現された新しい鐘は高さ120センチ、直径80センチ、重さは600キロで、表面には「祈」「慈愛」の文字が彫られた。資金は檀家の積立金が充てられた。
大槌町の死者・行方不明者は1234人。その半数が江岸寺の檀家だった。大萱生住職も、愛知県の大学で宗教学を学び帰省していた長男、寛海さん=当時(19)=と、当時住職だった父、秀明さん=同(82)=を失った。
大萱生住職は「私にとってはまだ復興の鐘とはいえないが、少し光は差した気がする。亡くなった人を大事に思う人たちがそれぞれの思いを込めてくれればいい」と話す。
この日は家族で一緒に鐘を突く光景が見られた。津波で母を失った同町の主婦、阿部孝子さん(51)は「もう二度とこんな悲しいことが起きませんように」と願い、夫や長女ら家族6人で鐘を突いた。
2013.3.11 22:29 msn産経ニュースより